心理的に疲れた日の話

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三連休の中日なかびであるこの日、友達のなぜか金回りの良いウェイパー西川(味覇ウェイパーのトラックドライバー)と口の締まりの悪い水道屋のパッキン永井という小学校時代からの友達と寿司屋で晩御飯を食べた。僕の離婚を酒の肴に「独身返り咲きを祝う会」と題しての会だった。

こんなトラックでルート配送をしている

ここでは一応、逆上せずにいられた。もちろん高級な、品のある店だったが、「一年に一回ぐらいなら、死ぬ気になれば自力でも来れるだろう」などと考えて、心に余裕があった。

そこから二軒目ということで祇園へ向かう。祇園といっても、スナックではなく、いわゆる「お茶屋」という舞妓・芸妓と遊ぶ場だ。何度か行ったことがあるが、何度か・・・という程度だ。

僕は自分から行くことはまずないし、パッキン永井という人間は “品” という言葉から地球上一番遠い人間だ。暖簾のれんをくぐるやいなや、僕とパッキンは右手と右足が一緒に前へ出始める。僕は慣れたフリをしてパッキンに言う。「とりあえず、ウェイパーのやる通り、やりゃええんや。」
ウェイパーは「よお」と芸妓たちに軽く手をあげて会釈し、「この前、帰りに酔いつぶれて玄関で寝てしもたんや、ハハハ」とぞんざいに靴を脱いで上がる。
一生懸命 “品” のある人間を演出しようと靴を揃えようとしていた僕とパッキンは、それを見て慌てて靴を放り出す。「アハハ、俺も寝不足」といいながら目をこすりながら僕とパッキンもウェイパーに続いて座敷に上がる。
広い座敷の真ん中に大きな座卓が据えてあり、盃と小鉢が置いてある。座布団の位置が4つ、ポツリポツリと離れている。あとからもう一人、トラック販売の自営業(トラック野郎)も参加するからだが、一人一人が離れて座るのでめちゃくちゃ心細い。芸妓たちが何やら笑いながら入ってきたと思ったら、トラック野郎と一緒に上がってきた。こいつもこんな場に慣れているのか、それともただ単にガサツなだけなのか。そして各人の隣に芸姑が座る。緊張のあまり、楽しく飲むという雰囲気ではない。
ふと見ると、ウェイパーとトラック野郎は隣に酒を勧めている。僕とパッキンは見よう見まねで、慌てて自分の盃を水の入った器につけ、ジャボジャボ音をたてて洗う。
「お二人さん、盃洗はいせんってのはなぁ」とウェイパーが偉そうに、普段は調味料を配達しているだけのクセに何か言ってきたが、恥ずかしさのあまり耳に入らない。

終電がなくなり、帰りはタクシーを利用することにした。トラック野郎のおかげで、タクシーにだけは強くなった。前はタクシーというと、とにかく緊張し、「距離が近いんじゃないか」とか「万札だしてもいいのか」とか考えたし、逆に「なんで客なのにこんなことでオロオロしているのか」と自己嫌悪に陥り、挙句の果て「歩いた方が楽だ」と切実に思ったりした。
しかしトラック野郎と同乗し、「悪いね、コイツ酔っぱらっているので」といつも運転手との間を仲裁するようになってからは、気が大きくなりタクシーに慣れた。

この日も「お茶屋」からそれぞれがタクシーを呼んで帰ったが、僕は少し夜風に当たりたくて大通りまで歩いてからタクシーを拾うつもりでいた。通りで手をグイっと挙げる。この自信に満ち溢れたタクシーの止め方に誇りを感じるようになった。そしてタクシーに乗り込もうとすると、60過ぎのそれなりに金持ちそうな男が「私が止めたんだけど」と僕の止めたタクシーに駆け寄ってきた。僕は男にはめっぽう厳しい。ここは絶対に譲れない。「どちらも山科まででしたら、一緒にどうですか。」と行き先が同じ方面だとわかると、運転手が調停案を出した。
約20分、その男性と同乗することになる。”タクシーエキスパート” もこれは初体験だ。「こういう場合、料金はどうするんだろう?」
乗っている間じゅう、そればかり考えて落ち着かない。多分、2000円弱だろうけど、半々といっても細かいことになるし、2000円を出してさっさと降りるか、でもそれも何だか小心者のようだしとかいろいろ考えていると、敵はすでにヴィトンの財布を取り出し準備態勢に入っている。負けてはならぬ。
停車するやいなや、1900円の支払いに、二人同時に2000円を出して火花が散る。「1000円と900円」と調停好きの運転手が言うと、今度は同時に「じゃ、1000円で」と新たなバトルが勃発する。

今日はめちゃくちゃ疲れた。帰って冷えた風呂に入って寝る。

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