【裏ロレ】ロレックスの「仕上げ」が簡素化されたのは手抜きか、進化か?名機に隠された工業化の真実

去年、大腸がん検診で検体を送付したけど、書類入れるの忘れてウ〇コだけ送ってしまって未だに結果がわからないオサーンです。
これまで【裏ロレ】として、あまり知られていない(別にそこは興味ないとの噂もある)ロレックスの話を書いていますが、まだもう少しありますのでお付き合いください。

はじめに:失われた「面取り」が提起する問い

ロレックス(Rolex)というブランドを語る上で、時計愛好家やコレクターの間で長年議論の的となっているテーマがあります。それは、1970年代後半から1980年代にかけて行われた主力ムーブメントの世代交代に伴う、「仕上げ品質の低下」に関する疑惑です。
名機と謳われたCal.15xx系(1570など)から、ハイビート化したCal.30xx系(3035など)へ移行した際、ムーブメントの受け板に見られた優美な「面取り(アングラージュ)」が廃止されました。これは単なる手抜きだったのでしょうか?

本記事では、当時のCEOアンドレ・ハイニガーの哲学「我々は時計の仕上げを行っているのではない、信頼性を設計しているのだ」という言葉の深層を探り、ロレックスが「品質」をどのように再定義したのか、その歴史的転換点を深堀りしたいと思います。


第1章:黄金時代の残照 — Cal.15xx系の美学と神話

「時計師の時計」としてのCal.1570

1957年に登場したCal.15xxシリーズ(特にCal.1570)は、今なお多くの時計師から「完全無欠の傑作」として崇められています。その理由は、耐久性だけでなく、量産品でありながら職人の手仕事を感じさせる「仕上げ」にありました。

  • 面取り(アングラージュ)の美学: ブリッジのエッジには、丁寧な面取り加工が施されていました。これはバリを取り除くだけでなく、光の反射によって高級感を与える伝統的な技法です。
  • 人間味の証: 当時のロレックスは「工業製品」と「工芸品」の境界線上にあり、内部パーツにも職人の関与を感じさせる「温かみ」がありました。

物語としての価値

マット・フラネック著『A Man & His Watch』に描かれるように、ヴィンテージロレックスの価値は「誰がどのように使い、人生を共にしたか」という情緒的な側面にあります。愛好家が後の時代の簡素化を嘆くのは、そこに「人間の体温」が感じられなくなったことへの喪失感と言えるでしょう。


第2章:1970年代の生存戦略 — クォーツショックと工業化

ロレックスが方針を転換した背景には、スイス時計産業を襲った未曾有の危機「クォーツショック」がありました。

  1. クォーツ革命: 日本製クォーツ時計が市場を席巻し、スイスのメーカーは激減。ロレックスも「オイスタークォーツ」などで対抗しましたが、本質的な生き残り戦略を模索しました。
  2. ラグジュアリーの再定義: 2代目CEOアンドレ・ハイニガーは、機械式時計を実用品から「ステータスシンボル」へと昇華させつつ、圧倒的な信頼性を備えた「工業製品」としての価値を追求しました。
  3. 垂直統合(自社一貫生産): 職人の手作業に依存する従来のモデルを脱却。手作業による「面取り」は、生産効率の向上と品質の均質化、そして機能優先へのリソース配分のために合理化(省略)されました。

第3章:Cal.30xx系の登場 — 「品質」のパラダイムシフト

1977年に発表されたCal.3035は、ロレックスが「仕上げの美学」を捨て、「エンジニアリングされた信頼性」を選んだ決定的なポイントです。

Cal.1570 vs Cal.3035 詳細比較表

比較項目Cal.1570 (旧世代: ~1977)Cal.3035 (新世代: 1977~)進化と変更のポイント
振動数19,800 bph (5.5振動)28,800 bph (8振動)ハイビート化により精度安定性向上
日付調整なし(針回しのみ)クイックセット機能リューズ一段引きでの調整が可能に
緩急調整マイクロステラナット (2本)マイクロステラナット (4本)より微細な精度の追い込みが可能に
パワーリザーブ約42-44時間約50時間ゼンマイと香箱の改良による効率化
秒針駆動間接駆動(出車式)直接駆動特有の「秒針飛び」を解消し動作が安定

意図された「美の喪失」

Cal.3035では、職人の手による丸みを帯びた面取りは姿を消し、機械加工による「C面取り(45度の切り落とし)」や切り立ったエッジへと移行しました。これは「手抜き」ではなく、部品寸法の完全な標準化を実現するための必須条件でした。職人が磨けば寸法にバラつきが出ますが、機械加工はミクロン単位の互換性を保証し、世界中のサービスセンターで均質な修理を可能にしたのです。


第4章:「信頼性の設計(Engineering Reliability)」の正体

ロレックスは「仕上げ」を削って浮いたリソースを、目に見えない「エンジニアリング」に投資しました。

  • 素材工学: 他社に先駆け、加工は難しいが耐食性に極めて優れた「904Lステンレススチール」を採用。
  • 自社開発の潤滑油: ムーブメントの寿命を左右するオイルを自ら製造し、長期的な性能維持を追求。
  • メンテナンス性の追求: 誰が分解しても同じ性能で組み上がる設計は、世界中どこでも同じサービスを受けられる安心感をもたらしました。

ロレックスにとっての「品質」とは、ルーペで楽しむエッジの輝きではなく、「購入から10年後、さらにその先も変わらぬ精度で動き続けること」へと定義し直されたのです。


第5章:噂と現実 — 工業化の影と光

市場には、Cal.15xxから30xxへの移行にまつわる様々な噂が存在します。

  • 「手抜き」か「進化」か: 見た目の美しさを重視するコレクターには「手抜き」に見えても、現場の時計師にとっては「部品が堅牢で調整が完璧に決まるエンジニアリングの勝利」として高く評価されています。
  • 3035は失敗作だったのか?: 「短命だったため失敗作」という噂がありますが、これは誤解です。初期のパーツ強度に課題はありましたが、その基本構造は現代のCal.3235に至るまで脈々と受け継がれています。
  • 現代の「仕上げ」への回帰: 興味深いことに、近年のロレックスは再び「仕上げの美しさ」に注力し始めています。最新のデイトナなどでシースルーバックを採用しているのは、極めた「工業技術」を用いて、今度は「美観」をも工業的に再現しようとする新たなフェーズへの突入を意味しています。

結論:信頼性が勝ち取った「実用時計の王」の地位

ロレックスが1970年代に「仕上げを落とした」ことは物理的な事実です。しかし、それは品質の劣化ではなく、ロレックスが現代の巨大企業へと飛躍するための「脱皮」でした。

彼らは他社に先駆けて、「高級時計の真の価値は、ムーブメントの輝きではなく、過酷な使用に耐えうる頑強さと永続性にある」と定義し直しました。

その冷徹なまでの産業的合理性こそが、ロレックスを単なる装飾品を超えた、世界で最も信頼される「実用的高級時計(Tool Watch)」としての地位を不動のものにしたのです。

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