高級時計が一部の愛好家だけじゃなく、昨今のように一般の人々に広まってからというもの、多くの人が特にロレックスを欲するようになりました。もちろん、ロレックスが世界で最も人気のある時計の一つであることは間違いない。しかし、富裕層のロレックスファンだけが知っていることがある。それは、本当に憧れるべきロレックスは、大々的に宣伝されたり、簡単に入手できるようなものではないモデルということが往々にしてある。 そんなロレックスは、「シークレットモデル」や「スペシャルモデル」と呼ばれています。
これは、ロレックスコレクターにおいて到達し得る、おそらく最高のレベルと言えるでしょう。なぜなら、そこはロレックスのオートオルロジュリー(高級時計製造技術)の頂点であり、最も華麗で幻想的、そして時に豪華絢爛なモデルが存在する領域だからです。もはや正規店で購入すれば “伝説” と言われるほどの「デイトナレインボー」をはじめ、バゲットカットのルビー、エメラルド、サファイアを散りばめた特別なデイデイトやGMTマスターIIなど、数々のモデルが名を連ねています。
多くのロレックス愛好家にとって究極のモデルであることに加え、これらの時計にはもう一つ共通点があります。それは、ロレックスのジェムセッティングと宝石学の専門知識の粋を集めたものであるということ。しかし、これはシークレットモデルだけに使われる技術ではないのがありがたい。ロレックスは、シークレットモデルである豪華絢爛なモデルであれ、ダイヤモンドセッティングされ、ちょっとした輝きを添えた普段使いのクラシックモデルであれ、すべてのジェムセットモデルには、当然同じロレックスクオリティーを注ぎ込んでいる。
具体的に見てみると、ジェムセッティングは、エナメル加工、彫刻、ギョーシェ細工など、多くの伝統的なメティエダール(美術工芸)に例えられる古くからある技術ですよね。時計製造、特にロレックスにおいては、ジェムセッティングとジェモロジー(宝石学)という2つの重要な分野に焦点が当てられており、この2つは名前は似ていますが、実際には全く異なるスキルセットです。
上記したように、ジェモロジーとは宝石学のことで、その仕事を行うジェモロジストは、宝石を検査し、選別する責任を負います。彼らは、どんなに小さな欠陥も見逃さないよう、すべての宝石をくまなく調べます。ロレックスは非常に厳しい品質基準を設けており、最高品質の天然石のみを使用しています。ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルドなど、いずれの宝石も厳格な検証手順を経なければなりません。
実際、ロレックスのジェモロジストは、分子レベルまで石を分析できる様々な分析ツールを駆使しています。その中には、ロレックスのために特別に開発されたものもあるようです。石の化学組成に関する詳細な情報は、ジェモロジストにその純度、ひいては品質について全てを伝えます。例えば、ダイヤモンドは、その真偽を確かめるために、X線画像検査が行われます。そしてロレックスのジェモロジストは、自らの専門知識を駆使して宝石を等級分けし、認証されたマスターストーンと比較することで、美しさと一貫性を保証しています。
ロレックスでは、ダイヤモンドは常に肉眼で評価されます。無色の石を見分けるジェモロジストの能力は、相当なモノだといいます。ダイヤモンドは、アメリカ宝石学会(GIA)のカラー・スケールで上位4つのグレードであるD、E、F、Gのみが受け入れられます。最初の3つのグレードは無色とされ、Gはニアカラーレス(ほぼ無色)の範囲で最高のグレードです。重要なのは、ロレックスは、すべての時計に使用されるダイヤモンドにおいて、サイズ、無色性、透明度の一貫性を重視しています。
一方、サファイア、ルビー、エメラルドなどのカラーストーンになると、基準は大きく違います。今度は無色性ではなく、あらゆる色の中で最も印象的な色合いを選ぶために、ジェモロジストは色の強さと彩度を求めます。カラーストーンの場合、ロレックスは、特定の時計に使われるすべての石が同じ色合いであり、色調の順にセットされる石が調和のとれた全体を形成するように特に注意を払っています。この要件を満たすために、ロレックスの工房では、石を一つずつ手作業で丁寧に選別する工程が行われています。
色の基準は石の種類によって異なりますが、透明度は容易に確認できます。ロレックスは、最も透明度の高い天然石と、IF(インターナリーフローレス)ダイヤモンドのみを時計に使用しています。IFとは、基本的に宝石学のグレーディングスケールで最高のカテゴリーに属する、内部に傷のないダイヤモンドのことです。
とはいえ、ジェモロジストが石を観察して見分けることができる多くの要素はカットに関係していおり、カットは宝石研磨士の専門知識の賜物。完璧にカットされた石は、光がすべての適切な角度で入り込み、石の底面で反射し、最大限の輝きを放ちます。石全体の対称性とファセット(カット面)の形、そしてファセットの数によって、人間の目にどのように色と透明度が映るかが決まります。実際、非常によくカットされたダイヤモンドでは、光の下では虹色に見えることさえあります。
ジェモロジストがそれぞれの役割を果たした後は、ジェムセッターの出番です。ここからはセッターと石、そして手動の道具だけに委ねられます。ベゼルローラー、バーニッシャー、ビーディングツール、爪曲げツールなど、あらゆる道具が交代で宝石を時計に固定していきます。台形カットのサファイアとルビー、ダイヤモンドを配し、12時位置に三角形のカットのダイヤモンドを1つあしらったGMTマスターII SARUのような壮麗なモデルを仕上げるのは、驚異的な技術と言えます。
他に、目を見張るようなジェムセットのGMTマスターIIとしては、ブラックサファイアとダイヤモンドを配したSANR、ブルーサファイアとダイヤモンドのSAなどがあり、その多くは文字盤、ケース、ブレスレットにもダイヤモンドがびっしりと敷き詰められています。エメラルドをセットしたモデルは非常に稀少で、台形カットのエメラルドとバゲットカットのダイヤモンドとエメラルドのインデックスを備え、文字盤全体にダイヤモンドを敷き詰めたデイデイト40のような時計にエメラルドを使用することで知られています。
ジェムセッターは、時計に美をもたらすデザイナーや、石の配置に最適なアプローチを検討するケースとブレスレットのエンジニアと協力しながら、繊細なタッチで作業を進めます。私にはよくわかりませんが、ロレックスが宝飾系モデルにどれほどこだわっているかを知るには、ブレスレットのリンクのあらゆる部分に石がいかに完璧に収まっているか、あるいはベゼルにいかにきれいに並んでいるかを見れば、わかる人にはわかると言います。当然ですが、隙間は全くありません。これは、ジェムセッター、デザイナー、エンジニアが協力して、すべての石を固定するために必要な金属の正確な量を決定しているからです。ロレックスの許容誤差は200分の1ミリメートル以内と言われています。これは人間の髪の毛の直径の約4分の1に相当します。
ジェムセッターは、特定の石をセットする場所を決めると、慎重に石を拾い上げ、金属に配置します。そして、石の縁に沿って金属を優しく押し込み、石を固定します。宝飾品作りと全く同じように、ジェムセッターの技量は、適切な道具を選び、正しい角度で使い、適切な力を加える能力、それに尽きるようです。そして、モデルによっては、この作業を最大3,000回も繰り返します。これは非常に触覚的なプロセスであり、ジェムセッターのタッチは、時計に命を吹き込む上で極めて重要です。
ロレックスが好んで用いる一般的な技法には、パヴェセッティングと呼ばれるものがあります。これは、表面に石を敷き詰める際に使用されます。この場合、使用される石は常にブリリアントカットのラウンドダイヤモンドで、3~5個の小さなビーズ状の金属の爪で固定されます。これは爪留めに似ていますが、爪留めはより大きな石に使用される傾向があり、爪が長く、石の露出が多くなります。また、ロレックスは、特にダイヤモンドのインデックスにクローズドセッティングを採用しています。さらに、チャネルセッティングまたはバゲットセッティングというのも用いられます。これは、通常、バゲットカットまたは台形カットの石と組み合わせて使用されます。この見事な技法は、間に金属を挟まずに、宝石の列を横に並べ、上下に折り畳まれた金の縁だけで石を固定します。もうよくわからないぐらい細かい技術です。
というわけで、科学と芸術が融合した宝飾系ロレックスは、登場するたびに富裕層の人々の目を奪います。それも当然。その強烈な輝きと煌きは、製造過程のあらゆる段階に注ぎ込まれた創意工夫を証明しているからでしょう。
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