財布を拾って心の中の悪魔が「全部盗んじゃえ!」と囁いた矢先に心の中の天使が「ダメ、現金だけで財布は置いとくのよ!」という二面性のあるオサーンです。
ロレックスの時計が「一生もの」と呼ばれる理由は、単に高級だからではありません。そこには、公表されている規格の遥か先を行く、狂気的とも言える品質管理体制が存在します。
前回は、「ロレックスの「鉄のカーテン」を剥ぐ:秘密主義と分業制の真相に迫る」という内容でしたが、今回は、ロレックスの精度検査における「第三の障壁」――すなわち、非公開の信頼性監査の実態について考察したいと思います。
公開されている「二つの検査」とその限界

現在、ロレックスが公式に認めている検査プロセスは以下の二段階です。
- 第一段階:COSC(スイス公認クロノメーター)認定
- 対象: 文字盤や針がつく前の「ムーブメント単体」
- 内容: 15日間のテストを経て、日差-4/+6秒以内をクリアするもの
- 限界: これはあくまで「エンジンの単体テスト」であり、実際の時計としてケースに収まった際の負荷や歪みまでは考慮されていません。
- 第二段階:高精度クロノメーター(Superlative Control)
- 対象: ケーシング完了後の「完成品(全数)」
- 内容: 日差-2/+2秒という、COSCの2倍以上の厳格な基準
- 限界: この検査は「出荷時の瞬間的な性能」を保証する「門番」ですが、5年後、10年後の経年劣化までは予見できません。
年間100万本を生産する中で、全数に対して数ヶ月の耐久テストを行うのは物理的に不可能です。そこで必要となるのが、統計的手法を用いた「第三の検査」です。
実在する「第三段階」:抜き取り破壊・加速劣化試験

「第三段階」は、都市伝説ではなく、工業製品としての「信頼性監査」として確実に存在します。その証拠となるのが、以下の特殊な設備です。
衝撃試験機「ベリエ(Bélier)」
ロレックスの研究所には「牡羊」を意味するベリエという試験機があります。この装置は時計に対し、最大5,000G(自動車衝突時の数百倍)もの衝撃を与えます。これほどの衝撃を与えれば時計には不可逆的なダメージが残るため、販売用の製品に行うことはできません。つまり、ラインから「テスト専用のサンプル」が抜き取られている決定的な証拠です。
加速劣化シミュレーション
中央研究所のロボットアームは、日常の着用動作を24時間繰り返し再現します。「数年分の摩耗を1週間でシミュレートする」このテストも、新品として販売する時計には適用できず、抜き取り検査の枠組みで行われています。
主要検査プロセスの比較表
ロレックスの検査体制を、他社の基準(オメガのMETASなど)と比較すると、その独自性が際立ちます。
| 段階 | 名称 | 対象 | 基準・内容 | 性質 |
| Stage 1 | COSC認定 | ムーブメント単体 | 日差 -4/+6秒 | 公的認証・全数 |
| Stage 2 | Superlative Control | 完成品(ケースイン後) | 日差 -2/+2秒、防水、自動巻 | 自社基準・全数・非破壊 |
| Stage 3 | 信頼性監査 (Reliability Audit) | 抜き取りサンプル | 5,000G衝撃、加速劣化、耐食性 | 自社基準・統計的・破壊含む |
他社認証との比較
| 検査項目 | ロレックス(第三段階・推定) | METAS(オメガ等) | クロノフィアブル |
| 対象 | 抜き取り(破壊含む) | 全数(非破壊) | 抜き取り(型式認証時) 20 |
| 衝撃 | 5,000 G (ベリエ試験) | 5,000 G (非破壊) | 20,000回の微小衝撃+高衝撃 21 |
| 経年劣化 | ロボットアームによる加速試験 | 含まれない | 21日間(6ヶ月相当の摩耗) 22 |
| 目的 | 「10年後」の保証 | 「出荷時」の完全性保証 | 設計の信頼性確認 23 |
専門家が口を閉ざす「政治的背景」と最高機密
ロレックスは、自社の検査プロセスを詳細に明かすことはありません。ある時計ジャーナリストは、ロレックスの品質が「客観的に最高レベルにある」と認めつつも、その具体的な裏側については「大人の理由で言えない」的な言葉で示唆したことがあります。権力から独立してこそがジャーナリズムですけど、まぁ仕方ないですね・・・
この情報の選別には、以下のような戦略的理由があります。
- 「動く標的(Moving Target)」戦略:数値を公表しないことで、技術革新に合わせて常に自社基準を上方修正し続け、競合他社が追いつけない状況を作っています。
- 模倣品(スーパーコピー)対策:外見や形は真似できても、5,000Gに耐える「材料工学的な耐久性」まではコピーできません。ロレックスは基準をブラックボックス化することで、模倣品との間に「見えない壁」を維持しています。
- Comexとの提携からの遺産:かつて潜水専門会社Comexと行っていた極限環境でのフィールドテストのノウハウは、現在の「第三段階」の精神的・技術的基盤となっています。
結論:ロレックスが王者に君臨し続ける理由
ロレックスの真の強みは、公的な認証や出荷時の全数検査にあるのではありません。むしろ、この見えない「第三段階」において、あえて製品を破壊し、限界性能を確認し続けているという狂気的なまでのデータ蓄積にこそ、実用時計の王者としての裏付けがあるのです。
「Long-term performance(長期性能)」という言葉に込められた絶対的な自信は、こうした非公開の「いじめテスト」によって支えられているのですね。

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