日々是、思ふ 其の弐拾捌
『日々是、思ふ』は、オサーンの身の回りに起こったことや、過去の回顧を中心としたハッキリ言ってどうでもいい話だが、それを遠回しでちょっと知的にみせようとするコラムである。
新聞、ネット、テレビ、どれを見ても『新型コロナウイルス』の話で埋め尽くされている。いや、それは悪いとは思わない。こんな異常な世界情勢なら当然かと思う。しかしそこから “死” について家族と話が進んでいった。
「いやぁ、ゴールデンウィークに何もできないしどこにも行けない。こんなところじゃ、何もない。」
と嘆息していると我が母親がおもむろに地図を広げる。
「何もないことはない。墓がある。ここに買うつもりや。」
何を言い出すのか。そんな金、どこにあるのか。
「せっかく買う墓や。みんな死んだら入ったらええ。どや、安心して死ねるやろ?」
何とも勝手に進めている。これって、騙されて買わされるのじゃないか?
「嫌や、俺は入らんからな。カリブ海に散骨するんや。壇蜜みたいないい女が、レゲエを口ずさみながらエメラルドグリーンの海に撒くと決まっとる。彼女の涙と共にな。」
「何言うとるんや。曹洞宗は散骨なんかせんわ。曹洞宗は一族一緒に入るんや。」
40数年生きてきたが、俺が曹洞宗ということなんて意識したことなんてなかった。何やそれ。
ふてくされていたら、その墓の案内人らしき者から数時間後に電話があった。息子が出る。
「ハイ、オサーン家です。えっ、お墓?オバアチャン?」
「お?詐欺まがいの墓売りか。代われ、ケチョンケチョンに言って撃退してやる。」
老人をだまくらかして高価な墓なんぞ売ろうとする輩は、断じて許せない。
「おいおい!墓ってどういうことや!」
どうだ、ここの家主は気合が違う。尻尾を巻いて逃げるがいい。
「初めまして、○○という者です。××様(母親の名)にはお話させていただいたのですが、世帯主の方でしょうか?」
その声はまるで壇蜜。そのセクシーヴォイスに様相が一変する。
「ハイッ!私が世帯主で墓に興味のある世帯主です。」
どんな相手でもたじろがないが、セクシーヴォイスには弱い。
「一度現地のご案内をしたいと思っているのですが、こんなご時世でなかなかお会いすることができなくて・・・」
もう電話口の相手は壇蜜に違いないと錯覚する。
「そう?そんなことならババアなんかほっといて、私が行きますよ。なんたって私が世帯主ですから。こういったことには責任者が行かないことには、話が進みませんからね。」
アポを取る段取りに入ろうとしたところで電話を隣から奪い取られる。
「買いません!」ピッ!プー、プー、プー・・・ヨメーンだ。
「アホちゃう、あんた。いい加減にしてよ。」
「何を言うてるや。こう相手を乗せといて断ったらダメージがデカいやろ。それ狙ってたんや。」
「ハイハイ」
ゴールデンウィークに予定を入れようとしたが失敗に終わった。神様は見ているのか。ゴールデンウィークは家族と過ごせということなのだろう。考えてみるとそりゃそうだ。うちには墓が既にある。
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