日々是れ、思ふ 其の弐拾
「日々是、思ふ」は、オサーンがちょっと時計とは関係ないこと(時には関係あること)、思ったことを綴る時事的コラムです。社会派ハードボイルドとでも言うべきか。100人に1人でも共感してもらえれば本望です。
基本、「オサーンの愚痴の掃き溜め」である。
正直に生きることは、嘘をついて生きることよりも大変だ。
「一昨年、退社した☓☓(独身女性40前)が飲食店を開いた」と彼女と仲の良かったウチの課の女性従業員から聞いた。聞いたからには、お祝いをしてやりたい。
彼女に少しでもいい人が見つかれば、と毎年新入社員に紹介する時は、「彼女はとにかく凄く性格が良くて、可愛らしい。容貌はやや不本意だが、体重は人並み以上」とよく褒めた。
「後半は余計です!(汗汗)」と周りからは言われたが、正直にそして端的に言っていたつもりだ。別に彼女から嫌われていたとは思わない。
正直者だから言う。ここで取り上げるのには訳がある。実は一人でもお客さんが来るようにと宣伝をしたかったから取り上げた。浮気も3日目で見つかるほど隠し事がヘタクソな私だから、そんなことは書かなくてもわかるだろうが。
そんな思いを携えながらランチがてら同僚達と店に行った。ドアを開けると客は一人もおらず、貸切状態。しかし驚くべき一言を店主である彼女が放った。
「ゲッ!係長、来なくていいのに…」
一昨年までは係長だったので、私のことをそう呼ぶ。それはいい。しかし入店拒否まではしないが、それは客に対して言うべきではない。
だが同行した同期の一人が言う。
「確かに俺も店開いたら、そう言うやろなぁ(笑)」
ナンデ?と思ったが、とりあえずランチを注文し席についた。きれいな店内にお祝いの花なども届いている。
ほどなくして食事が出され、こう言われた。
「写真とか撮って、SNSに出さないでね」
なぜ?普通は宣伝を頼むものだ。それを拒否するとは、よほどの自信なのか。確かに私のブログやツイッターは、時計関連ばかりで内容も薄い。しかし寝る間も惜しんで更新していることもあるし、仕事をそっちのけでツイッターに投稿することもある。ある意味、命を懸けている。
食事が運ばれ、お腹も減っていたので一斉に食べ始めた。数分経ってから同僚が聞いてきた。
「どう?☓☓さんのランチ。」
聞かれたから正直に言う。
「見た目も良くて量も多い。不味い以外欠点が見当たらない。」
と答える。
☓☓は、「だから来なくていいのに」とつぶやく。しかしジェントルマンを目指し、日々滝行に励む気持ちで生活している(したことはない)私はフォローを忘れない。
「いや、致命傷は一つだけだから大丈夫。」
お会計の時、「来てくれて嬉しかったです。」と言われた。私は
「多分今年はもう来ないけど、頑張ってね。まだまだ伸びしろはある。」
と言って店を出た。彼女をよく知る従業員から後で聞いた。
「☓☓さんの店、実は家業の税金対策らしいです。売り上げはどうでもいいそうです。」
そうだったのか。どうやら資産家の一人娘だったようで、そうとは知らなかった。味に関しては少し納得した。
話はガラリと変わるが、時計を買った。「またか」と言われそうだが、今回は日本の時計。”GS“、そう、グランドセイコーだ。正直者だから言う。私はGSのリセールバリューの悪さが購入の足を引っ張っている。”リセール“を想定して買うわけではないが、購入条件の1つであるには違いない。心の寂しい男である。
先日、友達の結婚披露宴前に時間ができた。GS60周年を我がブログでもフィーチャーしたところだったので立ち寄った。実物を見たかったからだ。店に入るとすぐ真正面にあるディスプレイケースに入っていた。眺めていると、「お出ししますのでご覧になってください」と言われた。
まだ披露宴まで余裕があるので、お言葉に甘える。するとこの個体と、あと2つほど在庫があると言っていた。いつでも買えると安心していたのだが、入店してきた他の男性客が「60周年ホニャララ(聞こえなかった)」と言ったと思ったら、即購入手続きに入っていた。私と接客している店員さんが、「このモデルは、そういうモデルなんです。」と言う。”足が速い” と言いたいのだ。
しかし70万円(税込み)からする時計を簡単には買えない。店の電話が鳴った。対応している店員さんが、
「今のところあと2つありますが、ホニャララ」と言っていた。そして接客している店員さんが言う。
「このモデルは、そういうモデルなんです。」
出た、また決め台詞。なぜか汗が出る。美しい。欲しい。この感情が出てきたら、止まらない。気が付けば “奥の間” で財布を出していた。
パテックやAP、ヴァシュロンやランゲを買う人にとって、”グランドセイコー” は正直、眼中にないブランドだと思う。海外の雲上ブランドは、美しい宝飾や装飾がなされている。ウットリする。かたや “グランドセイコー” は至ってシンプルだ。しかしその「機械を造る」という目に見えない技術は、前出のブランドたちとも、全く引けを取らないと言っても過言ではない。
その真面目な日本の職人が造る時計、私の心の中の雲上ブランドだと感じた逸品です。
「このブランドは、そういうブランドなんです」
正直に生きていると、本当に欲しかったら買ってしまう。正直に生きることは、金もかかる。
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