2019年のスイス時計業界のデータから見えるもの 後編

前編は、スイスブランドがそれぞれ市場にどれだけのシェアを占めているのか、を見てみました。それでは後半に入ります。後半は、世界におけるスイスブランドの強さを見ていきたいと思います。

約500億スイスフランの市場と言われていますが、スイス時計協会(FH)の輸出に関するデータによりますと、2.6%の成長が確認されており、雲上ブランドを始めとするハイエンドブランドが業界の将来を担っていると感じているようです。

ハイエンドブランドは世界でもスイスがダントツに多いことは簡単に想像できます。例えば「スイスブランドの時計市場での価値(総額)は、世界の時計市場全体の約53%を占めています。」と言われています。これを聞いて、「まぁ、それぐらいは何ら不思議ではない。」と思うかも知れません。

しかし世界中の時計量の中で、スイスブランドの時計が占める割合は驚くなかれ、僅か2%です。これが意味することは、スイスブランドの時計が、それ以外で作られているブランドよりも遥かに高価だということを意味しています。前半でも触れたように、これはスイス国内でもハイエンドブランドが支持されている状況と一致しています。

下のグラフは、2018年における時計の輸出量です。ということは、それだけ作られているということにもつながります。

中国 656.3
香港 204.7
スイス 23.7
イギリス 17.3
ドイツ 15.9

※単位は100万

さて、時計業界の2019年は前年に比べ、300万本もの売り上げが減少しています。これは前年比13%減少であり、これまでの最大の下げ幅となりました。減少傾向はこれまでも続いており、ピーク時の販売本数は約3,000万本と言われていたが、2019年2,060万本に減少しています。

これらの傾向から見えることは、時計業界はエントリークラスミドルレンジクラスの区分で、市場のシェアを失いつつあるということです。スウォッチグループの創設者であるニコラス・G・ハイエックは、「一つの市場から撤退した瞬間に、また新たな競合他社がやってくる。そして再び撤退が起こる」と、この分野の傾向を話しています。
しかしこれらの分野において強力なブランドを保有しているのが、スウォッチグループです。裏を返せば、この分野に挑戦するブランドは、スウォッチグループという厚い壁の前に敗れ去っているということだと思います。

スイス国内でいうと、ミドルレンジのブランドとしてロンジンティソチューダーなどがあり、高級レンジではロレックスオメガカルティエIWCタグホイヤーブライトリングが、ハイエンドレンジにはパテックフィリップオーデマピゲリシャールミルがあり、それぞれがある程度の住み分けができている状況です。

高級レンジでも、群雄割拠のブランドのせめぎ合いは多少なりともあります。2020年新型コロナウイルスの影響で、大打撃を受けているブランドがあるかもしれません。

今までとは全く違ったデータに2020年はなるかも知れませんね。