アガリの時計は雲上ブランドだけじゃない!行きつく先の一つ、独立時計師/マイクロブランド

ロレックスが好き、オメガが好き、そんなところからオーデマピゲパテックフィリップなど雲上と言われるブランドへとドンドン趣味を極めていくと「行きつく先」のようなものが見えてきます。

もちろん一つのブランドを数多く集める一点集中型も「誠実な愛」を感じますし、数多くのブランドに手を出すことも「時計愛」だと思います。そんな選択肢の一つに、雲上ブランドではなく「独立時計師」や「マイクロブランド」と呼ばれるゾーンが別世界のようにあります。一般的な時計ブランドの世界を図解してみると、こんな感じになります。

 

上の図ですが、赤いラインから上がグループ企業でそれに属しているブランド、下が独立系ブランドとなります。やはり一つの時計ブランドだけでは経営が厳しい業界ということで、数多くのグループが形成されています。そうすることによって、資金と技術をシェアできたりということで、生き残りをかけている世界です。しかしどこにも属さず、自前の資金で経営しているブランドがレッドラインより下になります。ロレックスパテックフィリップオーデマピゲなど、時計界を自力で突き進める資金と技術を持っているところは、グループに属す必要がありません。

今回お話するのは、この独立系ブランドではありません。この図の外にあるブランドのことです。大手時計ブランドで技術を磨いて、個人ブランドを立ち上げるパターンが王道ですが、そうでないパターンも稀にあります。

独立時計師は基本的に年間の製造本数がかなり制限されるということで、高額なモデルが多いと思われています。しかし全てがそういうわけではありません。一つ一つ丁寧に作り上げられている割には、手の届く価格のブランドもあります。もちろん日本にもそういった方々がおられます。

そんなことで、独立時計師 / マイクロブランドをご紹介したいと思います。

 

F.P. ジュルヌ

F.P.ジュルヌは、独立時計師の中では一番有名かも知れません。フランス人天才時計技師フランソワ・ポール・ジュルヌによって創立された時計ブランドで、多くの有名・著名人が愛用しています。また、ロレックスパテックフィリップなどが多く出品されるオークションハウスなどでも出品されることがあり、その落札価格が数千万円~1億円を超えることもあります。
また、世界で初めてのブティック東京南青山に作ったということも話題になりました。

オクタ リュヌ というモデルです。販売定価がよくわかりませんが、恐らく650万円~700万円ぐらいだと思います。

 

クロノメーター・オプティマム です。プラチナケース約1,000万円という価格、ケースバックからデッドビートセコンドステップ運針)を見ることができるモデルです。

 

NAOYA HIDA & Co.

日本人である飛田直哉氏2018年に設立したブランドが「NAOYA HIDA & Co.」です。ETA社の自動巻きクロノグラフムーブメントからクロノグラフと自動巻き機構を取り除いて使うという、一風変わっているようで理にかなったムーブメントをシンプルな3針ムーブメントへと作り上げる。そして時計のデザインは洗練された、どことなく懐かしさを感じるものが多い。

NH TYPE 1C という2020年4月に発表されたモデル。ステンレスケース手彫りのインデックス37mmのケースサイズで、スッキリした見た目。端正な佇まいを感じさせる時計だと思う。約200万円です。

 

NH TYPE 2A というモデルです。こちらもケースサイズは37mmだが、センターセコンドにしていることで約1mmほど厚さが増している。針や数字のデザインから、柔らかみを感じるモデルになっています。価格は約230万円です。

 

ヴィティライネン

フィンランド出身の時計師で、自国の時計学校からスイスの時計学校を経てスイスの時計製造に携わるようになる。2002年に開業し、ムーブメントの自主開発にも力を注ぐ、全てを自分で作り出す凄腕時計師。

ヴァントゥイット 28SC センターセコンド です。2020年ジュネーブウォッチグランプリメンズウォッチ賞を受賞しています。美しいギヨシェ彫りのダイヤルは内側にソレイユ模様、外周にダミエ模様を施しており、手作業にて作られている。約1,200万円です。

 

 

ミン

マレーシア出身のフォトグラファーでありデザイナーのミン・シン氏Ming Thein)率いる時計愛好家6人が立ち上げたブランドです。その独特なルックスは、カジュアルでありながらもヴィンテージ感漂う古典的な時計にも見えます。一目見て「Ming」と思わせる独特のデザインは、ジュネーブウォッチグランプリでも度々ノミネートされるほど、世界的に認知されているブランド。リーズナブルな価格帯ですが、その人気は発表と同時に即完売するほど。

2019年ジュネーブウォッチグランプリで受賞した Ming 17.06 Copper です。これにより一気に世界から注目されたと言っても過言ではありません。世界の独立時計師達の1,000万円クラスの時計が並ぶ中、1,250スイスフラン≒15万円という価格は衝撃的でした。

 

こちらも2020年ジュネーブウォッチグランプリでノミネートされた Ming 18.01 H41 です。受賞とはいきませんでしたが、確実に爪痕を残すインパクトのあるルックスです。こちらも回数を分けてリリースしましたが、全て即完売。カナダの時計コレクターが「これ、Ming ってブランドでメッチャ気に入っているんだ。スゲーだろ?」って言ってた動画をどこかで見ました。このダイバーズモデルは、3,250スイスフラン≒38万円 です。

 

オフィオン

かの有名時計コレクターの方も絶賛していたスペイン発のブランド、オフィオン。ここ最近では多くの時計メディアでも取り上げられてきていることもあり認知度が上がってきています。創業者がブレゲ好きということもあり、ブレゲ臭がプンプンしています。凄く上品で素敵なルックスで、しかもお手頃価格なんです。ケースは上でも出てきましたが Voutilainen-Cattin S.A. というヴィティライネンのケースを製造する工場とのコラボレーションで作られています。

Ophion の代表モデル Ophion OPH 786 です。17世紀の懐中時計にインスパイアされたというこのモデルは、数多くのダイヤルバリエーションを持っていますが、今は数種類が残っているのみとなっています。価格が25万円~45万円辺りというのも、人気の秘密でもあります。

 

D.ドルンブルート&ゾーン

D.ドルンブルート&ゾーンというドイツのブランドです。デザインを見ても、ドイツらしいクラシックなデザインです。1999年ディエルテと息子のディルクで時計製造を始めます。今や金属を加工するのは優れた工作機械があり、ある程度のことをできてしまいますが、昔ながらの工作機械を使って手作業で作ることにこだわりを持っている時計師です。なので年間製造本数も、200本を満たないといいます。

Q-2010.1 Klassik というモデルです。価格は8,790ユーロ≒110万円で、かなりのクオリティです。

 

 

ハブリング²

 

こちらもジュネーブウォッチグランプリの常連、しかも4回受賞しているというから凄いんです。2004年オーストリアで工房を開いたハブリング夫妻。お互いの名前をブランド名にすると長いので、妻の提案で、「Habring²(ハブリングツー)」というネーミングに。IWCランゲ&ゾーネ技術顧問を務めた独立時計師リチャード・ハブリングは、シンプルで、しかも機械の楽しさを感じさせる時計作りを目指しているという。

このモデルはフドロワイヤントといい、1秒をさらに分割して秒以下の微小単位で時間を測定する機能です。そうなんです、スモールセコンドと思いきや、このインダイヤルは針が1周で1秒、その一秒を8回に分けて刻むダイヤルなんです。そして秒針は、F.P.ジュルヌでもあったデッドビートセコンドステップ運針)です。

価格は100万円前後です。 機械式時計好きには、たまらない魅力を感じさせるブランドです。

 

(番外編) コンスタンチン チャイキン

ロシア唯一高級機械式時計ブランドであるコンスタンチンチャイキンロシア独立時計師であるコンスタンチンチャイキンは、その独特の感性、デザインを時計に落とし込む達人。その細かな技術は、世界の時計愛好家の注目の的です。

このモデルは Joker というモデル。オリジナルは100本も製造されていません。価格も約388万円コンスタンチンチャイキンのモデルは全てが希少なので、なかなか手に入れるのは難しいのが現状です。両目の目玉で時間と分を指し、口から見える舌はムーンフェイズとなっています。


時計ブランドは星の数ほどあります。メジャーブランドだけでは飽き足らず、そこからこういった「知る人ぞ知るブランド」に踏み込むと、その時計に宿っているスピリット、魂を感じることがあります。それは、なかなかメジャーブランドでは感じ取ることのできないもの。そんな目に見えない “何か” を感じたければ、一度実際に見て、手に取ってみるのもいいかも知れません。また新しい時計の楽しみ方が生まれると思います。

「時を知るための時計」なのに、時を忘れて見入ってしまいますよ。