ランゲ&ゾーネ オデュッセウスをしゃぶり尽くす 前半

第二次世界大戦後、旧東ドイツにより接収されその歴史に幕を降ろしたドイツ時計ブランドの名門  “ランゲ&ゾーネ” が復興したのが1994年10月24日

ランゲ復興の新モデル発表時

4つのモデル、左から「ランゲ1(Lange 1)」、「アーケード(Arkade)」、「サクソニア(Saxonia)」、そして「プール ル メリット(Pour le Mérite)」が発表されました。余談ですが、プール ル メリット約4年間の製造期間で200本の限定生産(プラチナ製50本/18K製150本)ということで、かなりのコレクターズアイテムとなっており、価格が凄いことになっています。今ではリヒャルトランゲトゥールボグラフなどにトゥールビヨンが搭載されていますが、このランゲ復興時に開発されたモデルは、大変質の高い作りになっているそうです。

Pour le Mérite Ref. 701.008

あの日から25年後2019年10月24日、それまでのブランドコンセプトとは違った新モデルをランゲ&ゾーネが発表した。それは オデュッセウス と名付けられたランゲ&ゾーネ初のスポーツモデルであり、レギュラーモデルではこれまたブランド初となるステンレススチール製。新しい分野を開拓し始めたと同時に、昨今の高級時計ブームの激戦区へ遅ればせながら参加する形となった。

A. Lange & Söhne Odysseus Ref: 363.179

これまでは “金(ゴールド)” などの貴金属素材をケースに使用し、ベルトは革というハイエンドドレス系ウォッチしかラインナップしていなかっただけに、発表前には「ランゲが作るラグスポってどんな形、どんなデザインなんだ⁈」と一部時計界隈では盛り上がった記憶があります。特に雲上ブランドの作り出すラグジュアリースポーツモデルには、2大巨頭が存在しています。

パテックフィリップ ノーチラス(左) / オーデマピゲ ロイヤルオーク(右)

両モデルは “天才” と言われた、今となっては伝説的な時計デザイナーであるジェラルド・ジェンタ氏によって考え出されたデザイン。ノーチラスは”“のようなものが付いており、ロイヤルオーク八角形のベゼルに表からビス留めさてれいるデザイン。これらを正規店で購入することは相当なハードルの高さを有しており、特にノーチラスは2021年に入り製造終了のアナウンスがあったこともあり、天井知らずの値上がりを見せています。恐らく後継モデルは出ると思いますが・・・

この2モデルだけではなく、ヴァシュロンコンスタンタンにはオーバーシーズというこれまた人気のラグスポが存在しており、こちらもブルーダイヤルブティック限定になったようで、入手のハードルが上がった感があります。

ヴァシュロンコンスタンタン オーバーシーズ

これらの他にも18Kモデルや複雑機構の搭載されたような多くのバリエーションがあり、それぞれが人気になっています。また、多くの高級時計ブランドがスポーツモデルというカテゴリーを既に展開しています。そんな状況での参入とありますので、「ランゲにはラグスポを作って欲しくなかった。」とか「ランゲの作るラグスポには興味がない。」などの発言も目や耳にしました。確かにランゲには、”住み分け” をして欲しかった気持ちもわかります。その伝統やスタイルを貫き通して欲しいという思い。そこには「」があるからこそなのかも知れません。

でもね、やっぱり見たいんです。あのランゲが作るラグスポ。その発表を当時、私は楽しみにしておりました。そして発表当日、YouTubeにアップロードされた時の動画を観て感動した。

ランゲの商品開発ディレクターのアントニー・デ・ハス氏(Anthony De Haas) と WatchAdviserアレクサンダー・リンズ氏(Alexander Linz)がその日に現物を紹介。この右側のオッサンリンズ氏、誰よりも先にこの時計をいじくりまわしており、単なる一般人の私ではありますが、相当ジェラシーを感じたことを思い出す。

当然この時の動画コメント欄には賛否がある。「ドレスウォッチだけ作っとけ」みたいなことや、「スポーツモデルというが、これ着けてスポーツする人いるのか?」とか、単に「ダサい」という人も。そんな意見が活発に出るということは、それだけ注目されているってことです。人それぞれ、色んな意見があって、それで良いと思います。

ただ僕は、右側のオッサンリンズ氏が羨ましくて仕方がなかった。恰好良いと僕は思ったからです。だって、ロイヤルオークを初めて見た時は確かに「これ、恰好いいな」と思いましたが、正直言ってノーチラスを見た時は「何じゃこの、はんぺんみたいなデザインは!」とか「如来さんの耳やな」と言っていた記憶があります。しかし今では ノーチラス Ref. 5711 が欲しくて仕方ないし、メチャンコ恰好良く見える。

※Twitterでフォローさせて頂いている鍵付きアカウントの方から画像をお借りしました

そうなんです。やっぱり人気があり多くの人が欲する物は強烈な引力(クセ)を持っていると思います。それは時計に限った話ではない。見慣れてくるということもあるでしょうが、その時計の機能や良さを多くの人が語り、自分の第一印象から大きくプラスに転じる典型例が私にとってはこのノーチラスでした。

あっ、ヤベ!ノーチラスの話になってきた。今回はそうじゃない。私がこのオデュッセウスに魅了された理由がある。またそれは後で述べが、その憧れのノーチラスに匹敵する、いやそれ以上かもしれないと感じた時計が、オデュッセウスなんです。ここからは購入にあたってのお話を。

みんな大好きロレックスプロフェッショナルモデルスポーツモデル)となると、今では予約を受けている正規店は(表向きには)ない。ロレックスについてはこれ以上言及しません。しかし多くの時計ブランドは、新作や現行モデルの予約を受けている。このオデュッセウスも例外なく、予約を受けている。

とは言うものの、このオデュッセウスブティック限定モデルではないにもかかわらず、現在はブティックのみの受付となっている。そのブティックというのはどこにあるのか?ランゲのHPで確認してみると、

日本では現在4店舗となっている。ちなみにブティックではない店舗は、「正規代理店」と呼ばれている。その日本4店舗あるブティックのうち、3店舗東京となっている。ズルイ。でもそうなっちゃうのは仕方ない。これも商売だ。商品を購入してくれる層が多いところに店舗を構えるのは当然だと言える。だって、世界中のブティックの数が36店舗しかない。そのうちの4店舗日本にあるってことだけで、ラッキーだと思う。

私にとってオデュッセウスの予約方式の良さは、後に述べるが、この明確な基準にある。しかしノーチラスはハッキリとした購入に関する基準が一般人には見えない。ロイヤルオークのブルーダイヤルはブティック限定となっているが、購入に関しての基準はこれまた見えない。基準は見えないが、「顧客の中でもある程度の購入履歴がないことには難しい」、ということは理解できる。となれば、500万円~の購入履歴は欲しいところ。ノーチラスに至っては、1,000万円は必須かと思う。知らんけど。

オデュッセウスの場合は、そのブティックで300万円以上の購入履歴が条件となっている。これほど明確な基準を打ち出しているのは大変ありがたい。元々私のように、「いつかは “ランゲ1” が欲しい」と思っていた人間にとっては、背中を押してくれる。ブティックで購入するとそのままオデュッセウスを予約ができる。

しかしその予約についても、予定通りに事が運んでいないようです。当初、2019年10月に発表後、ブティック限定での予約受付は、翌年の2020年4月までの予定でした。本来ならば、ブティックだけではなく正規代理店300万円以上の購入で、今では予約可能になっているはずでした。

しかし正規代理店での予約が実際にはまだ受付できていない状態のようです。ブティックでの予約の数が余りにも多くなってしまったというのが理由の一つだと思われる。ロレックスの年間製造本数が80万本以上と言われている中、ランゲの年間製造本数は約8,000本と言われている。簡単に見積もって、ロレックスの 1/100オデュッセウスの製造割合となれば、ほんの一握りとなってしまう。

そしてもう一つ大きな問題が。それは世界中を混乱させている新型コロナウイルスだ。この問題はランゲだけでなく、世界中のありとあらゆる業種に当てはまる。これにより、工場などの製造ライン、経済が大きく鈍化した。そんなこともあり、時計を買いたい既存の富裕層の需要と供給する側のブランドとのバランスが崩れた。結果、人気ブランド・人気モデルだけが一人勝ちのような状況となっている感がある。

と、いうことでオデュッセウスを取り巻く現状と私のこの時計に対する想いがこんな感じです。一つのモデルに注目して、他のモデルとの対比や良さを見つけて楽しむのは、私の「時計の愉しみ方」の一つです。